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カレー沢薫のなりゆきデジタル化ぐらし〜Vol. 1〜

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目次

    「できたら紙で買ってください」

    これは数年前まで私がよく言っていた言葉だが、今思えば冷たい水を所望した後で「できたら愛してください」(*)と言い出すぐらい要求のハードルが上がりすぎだったと思う。

    私は一応漫画家を生業としている。
    ならば何故ここで文字を打っているのかというと、漫画だけでは若干厳しいからだ。

    私を含める漫画家を厳しくさせている要因はいろいろあるのだが、やはり一番の原因は「売れていない」ことだと思う。
    最近は漫画の売り方も、電子単話売りで莫大な利益を上げたり、公開は無料で行い広告収入で稼いだりと多様化している。
    逆に言えば「Xに丸々1話掲載したけど3リポスト」など売れなさ加減もバリエーションが広がっているのだが、一昔前まで「売れていない」と言えば「単行本が売れていない」ことを指していた。

    単行本が売れない、というのは漫画家にとって終わりの始まりであり、行きの新幹線で隣に蝶ネクタイメガネの小学生が座るぐらい終わっている。

    単行本が売れないと印税で儲からないというのもあるが、それ以前に「連載の打ち切り」が決定する可能性が高いのだ。
    作者と出版社が「死傷者ゼロの決着は難しい」と判断するレベルで揉めたり、作者が法律にダイレクトアタックを仕掛けたことによる終了もあるにはあるが、打ち切りの原因は大体「単行本の売上不振」である。

    ただ数年前まで「紙の本の売上」を重視する傾向にあったと思われ、電子の売上はそこまで大きな判断基準にされていなかったような気がする。

    よって厳しい漫画家である私は単行本が出るたびに「できたら紙で買ってほしい」と言ってきたのである。

    その状況が一変したのがコロナ禍であり、巣ごもり需要から電子書籍のシェアが急増した。
    その結果、「紙の本と電子の売上両方」を見て打ち切り判断をする出版社がほとんどになったのではないだろうか。

    そのおかげで私の連載が終わらなくなったかというと、それは全く関係なく「紙と電子両方売れてない」という理由で打ち切られるようになっただけだ。
    ただ、単行本がでるたびに、買ってくれるだけでもありがたいのに「できれば紙で買え、さもなくば連載が終わるし俺が餓死する」などと「犯人:俺」「人質:俺」でお送りする謎キャスト脅迫を読者に対して行わずに済むようになっただけでも気が楽だ。
    そして何より、自分がもう紙で本を買っていないのに、人には紙で買えと言わなければならないのが心苦しかった。

    この件に関しては今でも単行本を発売するたびに「献本として10冊以上自分の本が家に送られてくる」という罰を受け続けているのでそれでご容赦いただければと思う。

    どうして私が本を紙で買わないのかというと、普通に整理整頓ができないゴミ屋敷の住人だからだ。
    この手のタイプが本を紙で揃えていたら大変なことになるので、本はほぼ全て電子で買うようにしている。
    だが、他人の本をどれだけ電子で買おうと、自分の本が紙で10冊以上届いている時点で台無しであり、私の家はかなり本で圧迫されている状態だ。それなら他人の本で圧迫された方がマシな気もする。

    つまり「紙」というのは思った以上に物量があり、スペースを圧迫するものなのだ。

    電子書籍だけではなく、コロナ禍の影響で「ペーパーレス化」が急速に進み、それ以前はパソコンで制作した請求書を印刷し印鑑を押して送り状を添え封筒に入れ切手を貼って郵送するという、「儀式」としか言いようのない行為をしていたが、今ではPDF対応しているところがほとんどだ。

    しかし、かなりペーパーレス化したと言っても未だに情報を「紙」で渡されることも多いのが日本の実情だ。
    さらに書類というのは意外に捨て時を逃しがちである。
    私の本なら「同じ本が10冊あるということは9冊は捨てて良いのでは?」と捨てる判断は簡単であり、あとは「自分の本を捨てる」という精神的負担に耐えるだけで済むが、書類は捨てた瞬間「先日渡した書類の記載通りに」みたいな話が来るのでは、と思ったらなかなか捨てられない。

    そんな捨てられない紙が積もり積もって、机や部屋を狭くし、さらに本当に重要な書類が見つからないという状態を作り出しているのである。

    多くの電子書籍ユーザーが、本は読めさえすれば良く、物理で存在する必要はないと思っているように、情報も大体のものが内容を確認できさえすれば、紙ベースで持っておく必要はないはずだ。

    ごく最近まで請求書を送るだけでも請求書、封筒、切手、送り状という四種類の紙を登場させていた紙強火国家の人間として「紙で持っていた方が安心だし単純に匂いに興奮する」という気持ちを捨て去るのは難しいかもしれない。
    しかし、そろそろ家庭内でも書類はすぐにデータ化して紙を溜めこまない「デジタル管理生活」に慣れていくべきなのではないか。

    飲んだペットボトルを捨てずに、机上にコレクションしている私から突然こんな提案をされて戸惑っている人もいるかもしれないが、そういう案件なのだから仕方がない。

    紙類をデータ化と言っても、1枚1枚スキャンしたりスマホで写真を撮って保存しろと言われたら、そろそろメールを覚えてくれと言われた老が「FAXの方が早い」と言うように「紙で持っといた方が早い」と感じるだろう。

    だがこの度、デジタル化生活をアシストするアイテムを紹介することになった。
    その名も「ScanSnap」である。

    カレー沢「普通のプリンタよりも小さい、こいつにそんな力があるというのか?」

    一枚ずつスキャンなんて、だるくてやってられねえよ、という前フリの後にスキャナーを登場させてしまって申し訳ないが、もちろん家庭用プリンタのおまけについているようなスキャナーとは別物だ。

    どう違うかは、次回セッティング&使用感編で紹介したい。

    ただし、現在の私の部屋の状況から「純然たるゴミの中からデータ化すべき書類を発掘できない」という可能性はある。
    その場合は予告なく「色がいい」など、ScanSnapのビジュアルをひたすら褒める回に変更されるが、ご了承いただければと思う。

    *引用:ポルノグラフィティ「アゲハ蝶」の一部抜粋

    紙の献本の山と対峙するカレー沢薫先生

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    ScanSnap iX1600

    毎分40枚・80面の両面高速読み取りを実現し、簡単操作のタッチパネルを搭載。Wi-Fiの5GHzに対応し、原稿サイズ、色や両面・片面を自動的に判別。 驚くほど簡単、スピーディーに電子化します。

    この記事を書いた人

    漫画家・コラムニスト カレー沢薫

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    元気な漫画家、まだまだ成長中。文章をかきます。

    karezawakaoru