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[PRESS RELEASE]

2017年8月1日
国文学研究資料館
株式会社PFU

鬪雞神社で、可搬型ブックスキャナを用いた歴史的典籍の電子化実証実験を実施

~南方熊楠が研究に利用した「今昔物語集」を効率的に電子化~

大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館(以下、国文研)(注1)と、株式会社PFU(以下、PFU)(注2)は、「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(以下、歴史的典籍NW事業)(注3)の一環として、歴史的典籍(以下、古典籍)に特化したブックスキャナの実証実験を実施しました。


本実証実験では、古典籍の研究者を擁する国文研の専門的知見のもと、PFU が開発中の可搬型ブックスキャナを世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に登録されている鬪雞神社(注4)に持ち込み、同社が所蔵する古典籍「今昔物語集(写本)」(注5)の電子化を行いました。日本各地に点在し、持ち出すことが難しい古典籍についても操作性、保護性などを追求した可搬型のブックスキャナを用いることで、準備や作業時間を大幅に短縮し、生産性が向上することを実証しました。


今後は、歴史的典籍NW事業の古典籍電子化において、ブックスキャナの実用化を進めていくとともに、契約書や記念誌など綴じ冊子の電子化も可能な汎用性のある装置の開発を目指します。


鬪雞神社

今昔物語集(写本)


背景

国文研は、歴史的典籍NW事業の中心として、国内外の大学等と連携し、日本古典籍に関する国際共同研究ネットワークの構築に取り組んでいます。近代以前に作られた古典籍は、作成から時間が経過しているため、紙そのものの劣化や、災害による消失のリスクが大きな課題となっています。そこで、古典籍の画像を電子化し、原本で見た場合と同程度の解像度で保存していくことが求められています。そのため、同事業では日本古典籍約30万点を画像データ化してデータベースの構築を行い、古典籍の保存を進めています。

しかし、古典籍の電子化作業においては2つの課題があります。1つ目は、古典籍の取り扱いや電子化方法などの専門性が高く生産性が低いことです。2つ目は、古典籍が日本各地に点在し、持ち出せないことが多いことです。そのため、現場に機材を持ち込み、撮影ブースを設営する必要があるため、準備と電子化作業に時間を要しています。

国文研とPFUは、これらの課題を解決するため、2016年1月から3年間の共同研究契約を締結し、今般、古典籍が保管されている鬪雞神社に可搬型ブックスキャナを実際に持ち込み所蔵本の電子化を行う、初めての実証実験に至りました。

実証概要

2017年7月3日、鬪雞神社内に可搬型ブックスキャナの試作機を持ち込み、同社が所蔵し、様々な学問の研究で知られる南方熊楠が研究に利用した「今昔物語集」の写本5冊、計211イメージを電子化しました。


可搬型ブックスキャナの特長

バッテリーを内蔵した可搬型ケースに組み込まれているため、寺社や個人宅など、古典籍の所有者の現場にスキャナとPCを持ち込むだけで、容易に電子化作業を実施できます。また、上からスキャンする方式を採用しているため、フラットベッド式のスキャナを利用する場合と比較し、古典籍へのダメージを最小限に抑え、書籍に優しく簡単な操作で電子化を実現できます。


可搬型ブックスキャナ(試作機)


電子化画像の一部



電子化作業の風景

実証結果

本実証実験の結果、可搬型ブックスキャナは、以下の点で古典籍の電子化作業において有効であることを確認できました。

  • 撮影ブースを使った古典籍の電子化作業は、一般的に、撮影ブースの設営や機材調整、撮影などで半日~1日程度かかりますが、可搬型ブックスキャナを用いた本実証実験では、約2時間で「今昔物語集」写本5冊、計211イメージの電子化作業を完了することができ、電子化作業を大幅に効率化できることが確認できました。
  • 簡単な操作性により、電子化作業の習熟度によらず作業を行うことができました。
  • 専用の原稿台により、古典籍を傷めることなく、電子化を行うことができました。
  • 古典籍の電子化品質として十分な24ビットフルカラー、400dpiの画像データを得ることができました。

今後の展望について

国文研とPFUは、今回の実証結果をもとに可搬型ブックスキャナのさらなる改良をおこない、歴史的典籍NW事業への参加大学や、日本各地の古典籍所蔵機関、個人所有者のご協力のもと、実地評価を進めていくとともに、契約書や、記念誌など綴じ冊子をはじめとした様々な用途や業務への適応範囲を拡大し、2018年度、PFUからの提供開始を目標に開発を進めていきます。


イベント

今回の実証実験で撮影した今昔物語集(写本)に関する研究成果報告が、以下の研究例会で報告されます。
例会において、今昔物語集(写本)の電子化画像を含む実証実験の成果および、可搬型ブックスキャナの試作機をご覧いただけます。

名称 2017年度南方熊楠研究会夏季例会
期日 2017年8月5日(土曜日) 10時~17時15分(開場 9時30分)

※研究成果報告は、13時30分~15時30分に行われる予定です。
※当日は、可搬型ブックスキャナ試作機を展示します。
会場 田辺市文化交流センターたなべる(和歌山県田辺市)

商標について

記載されている製品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。


本リリースで使用した画像について

今回のニュースリリースで使用した画像は、自由にご使用ください。なお元画像データの提供等をお求めの場合は、PFU 経営戦略室 パブリックリレーション部へご連絡ください。


以上

注釈

  • (注1)国文学研究資料館:東京都立川市、館長 ロバート キャンベル。
    日本文学の研究機関。設立:1972年(昭和47年)。国内各地の日本文学とその関連資料を大規模に集積し、日本文学をはじめとする様々な分野の研究者の利用に供するとともに、それらに基づく先進的な共同研究を推進する日本文学の基盤的な総合研究機関。
    創設以来40年にわたって培ってきた日本の古典籍に関する資料研究の蓄積を活かし、国内外の研究機関・研究者と連携し、日本の古典籍を豊かな知的資源として活用する、分野を横断した研究の創出に取り組んでいる。
  • (注2)株式会社PFU:横浜本社 横浜市西区 、代表取締役社長 長谷川 清。
  • (注3)歴史的典籍NW事業は、国文研が中心となって、国内外の大学等と連携し、「日本語の歴史的典籍」に関する国際共同研究ネットワークを構築することを目的としている。「日本語の歴史的典籍」には、あらゆる分野の書物が含まれており、研究分野は人文科学全体、さらには自然科学系の諸分野にも及ぶことから、異分野を融合させた研究も展開される。
    また、本計画においては、研究基盤整備として、「日本語の歴史的典籍」約30万点を全冊画像データ化し、既存の書誌情報データベースと統合させた「日本語の歴史的典籍データベース」の構築も行うこととしている。
    本計画の実施にあたり、拠点大学として国内の20大学が参画しており、国文研の学術交流協定機関を中心とした海外の大学・研究機関等とも連携を行っている。
  • (注4)鬪雞神社:和歌山県田辺市。2016年10月に世界文化遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に登録。
  • (注5)南方熊楠(1867年 現、和歌山市生まれ)は変形菌(粘菌)の研究など、近代日本の博物学・民俗学の先駆者的存在で、今年生誕150周年にあたる。
    今昔物語集の存在は、国文研で実施している大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」の一環として、奈良女子大学の千本英史教授ら研究者グループがおこなった拠点主導共同研究のなかで確認されたもの。熊楠は、田辺の地で「田辺抜書」(61冊)を作成した。そのなかで利用された今昔物語集がどのテキストに拠るのか分かっていなかったが、それがこの鬪雞神社の所蔵本であったことが分かった。

関連リンク


歴史的典籍NW事業に関するお問い合わせ先

人間文化研究機構 国文学研究資料館

古典籍共同研究事業センター 古典籍共同研究係

電話:050-5533-2988

E-mail:cijinfo@nijl.ac.jp


2017年度南方熊楠研究会取材対応先

研究会事務局:南方熊楠顕彰館

和歌山県田辺市中屋敷町36番地

電話:0739-26-9909・Fax:0739-26-9913

E-mail:minakata@mb.aikis.or.jp


スキャナ関連および報道関係者お問い合わせ先

株式会社PFU

経営戦略室 パブリックリレーション部

電話:045-305-6001

E-mail:pr@pfu.fujitsu.com



※プレスリリースに掲載されている製品の価格、仕様、サービス内容、お問い合わせ先などは、発表日現在のものです。その後予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。