ものづくりの先にいるお客様にとどけたいこと
~ヒトとモノの両輪で支えられているPFUの製造品質~

ものづくりの現場では、品質はもちろんのこと、効率がたえず要求される。しかし、どの企業もムダを徹底的に排除した取り組みをすでに実施しており、改善施策だけでは、もはや限界を迎えつつある。
こうした中、PFUでは、“最新の生産方式”と“現場力”の両輪でもってその限界に挑戦しているという。

前回(1回目)は、ものづくりの現場における革新的な取り組みについて述べた。2回目の今回は、「PFUの製造品質を支えるヒトとモノ」というテーマで紹介する。

ProDeSセンターはものづくりの技術者集団

製造の流れをごくごく簡単に説明するとすれば、“入荷した部品を適切に組み立ててそれを製品として出荷するプロセス”といえる。そこで重要になるのが、一連の工程が川のごとく淀みなく流れることである。製造業ではしばしば“整流化”という言い方をする。
PFUの製造拠点であるProDeSセンターでは、ものづくりに欠かせない「板金加工」「プリント板ユニット製造」「装置組立」という機能が1つの建屋の中に集約されている。それらの機能を効果的に連携させることで、部品入荷から製品出荷まで、まさに整流化された状態での一貫生産を実現している。
そうした整流化を支えているのが、約650名の技術者たちである。そこには50名ほどの技能検定取得者がいるという。ProDeSセンターは、まさにものづくりの技術者の集まりでもあるのだ。

製造品質を支えるヒトたち

ProDeSセンターで活躍する技術者の年齢層やスキルは様々だ。信じられないスピードと正確性と技でもってモノを加工し、作り上げるベテランの匠もいるし、現場の最前線で指揮を執る若き技術者もいる。
ここでは、そういったヒトに焦点を当てて、取り組みや想いを紹介する。

技能検定の「特級」って?

最初に紹介するのは、機構品製造課の池田課長である。

人懐っこい雰囲気を漂わせる彼は、技能検定の「工場板金」という分野において、特級を取得しているという。技能検定は、ものづくりなどの現場で働くうえで必要とされる技能を評価する国家試験である。職種は130種にも渡り、試験に合格した人が「技能士」と呼ばれる。「工場板金」という職種は、機械で金属板を加工することを専門に行い、図面から展開する技術と高度な加工技術が求められる。

池田課長が取得している特級の技能レベルが気になるところだが、実は、特級の実技では具体的な加工技術が試されるわけではなく、下位の技能士が有すべき技能を見極められるかどうかということが問われるそうだ。そのため、受験には「1級合格後5年以上の実務経験」という制約が設けられている。ちなみに、1級の実技の切削加工に求められる公差(許容される差)は100分の0.3ミリ以下だという。

――技能はどうやって身に付けたのですか?
池田日常業務を通じて一定のスキルは身に付きますが、とにかく先輩たちが丁寧に教えてくれました。当社には、技術を効率よく身に付けるための環境(方針・設備・指導者)が整っています。また、周りの人が互いに刺激し合って技能検定に挑戦しようという雰囲気があるし、資格取得奨励制度による支援もあるので、恵まれているところは確かにあると思います。

――身に付けた技術をどのように活かしていますか?
池田設計者が書いた図面を見ただけで、加工できる・できないがすぐに判断できます。つまり、加工を開始する前に不備が検出できるので無用な工数の抑制にもつながっていると思います。また、デザインレビューの段階で、品質やコストに関して助言するなどしています。

不器用な少年でした...

根っからの技術者のような池田課長だが、意外にも子供の頃は不器用だったという。それでも高校の機械科に進学し、高校3年の時に体験したPFUの工場見学が、この会社に入るキッカケになったと話す。

池田学校で学ぶことと実際のものづくりの現場では、設備も求められる精度も全く違います。アマチュアとプロの違いがあるので当然ですが。ただ、最初は誰もがアマチュアです。その意味でも、私がそうであったように、まずはプロの工場の現場を見て刺激を得ることは大事ですね。最初は不器用でも、常にものづくりの楽しさを求め、それを大切に思うことで、その先に技能が身に付くのだと思っています。

池田課長は、技能の継承や後継者育成をサポートする「ものづくりマイスター」にも認定されているとのこと。ちなみに、工場板金の分野では石川県に数名しかいないのだという。

若い技術者への期待とメッセージ

若き技術者への期待について、池田課長に伺った。

――若い技術者に期待することを教えてください。
池田ものづくりの先にはそれを使う人が必ずいます。ですから、使う人の気持ちに寄り添い、使う人の笑顔を想像しながら、自分の技術を発揮して欲しいですね。それを通して、“ものづくりって案外楽しい”ということに気づいてもらえればいいと思っています。

池田課長のこの熱いメッセージは、必ず、若い技術者の心にとどくはずだ。

若きリーダーが支える新混流ライン

続いては、現場の最先端で活躍する若手の技術者を紹介する。
入社5年目、エンベデッド製造課の武田さんである。

実は、武田さんは、1回目に紹介した「新混流+ムービング組立ライン」の現場の運用を担当する若きリーダーである。新混流ラインの導入にあたって苦労した点や、チームメンバーとの関わりについて伺った。

――新混流ラインを導入した当時のことを教えてください。
武田新混流ラインは昨年の3月に導入されました。導入に際して、まずはチーム内で、従来の製造ラインとの違いを含め、新ラインのコンセプトの共有から始めました。また、これまで経験のない新しい機種については、まず自分で試して、そこでの気づきや課題を、教育を通じて共有するなどしました。

――リーダーとして心がけたことはありますか?
武田新混流では、既存のチームの精鋭を集めて編成しました。チームのメンバーはそれぞれスペシャリストばかりでしたので、技術的な指導というよりは、メンバーの戸惑いをいち早く察知し、積極的に話しかけるなど、コミュニケーションを心がけました。

現場の気づきが改善の手掛かりになる

新しい運用の導入にはトラブルも多い。例えば、ムービング組立ラインでは1つの工程の所要時間(タクトタイム)を設定するのだが、スケジューラーの見込みミスや、作業者の慣れの問題もあって、設定した時間をオーバーすることが多かったという。

――そういったトラブルをどうやって解決したのですか?
武田明快な解決策はありません。トライ&エラーを繰り返して、問題と思われる部分を少しずつ修正していきました。例えば、電子手順書の分かりにくさが遅れの原因だった場合は、作業者の目線で説明を見直しました。電子手順書のメンテナンス自体は製造部の担当ですが、そこに記載されている内容は、我々現場のノウハウそのものなんです。解決のヒントは常に現場にあります。そこでの私たちの気づきが、そのまま改善の手掛かりになるということです。

武田さんは、「これからもいろんな経験を積んで、良い職場の雰囲気と良いラインを作っていきたい」と、決意を込めて述べてくれた。

製造品質を支える仕組みが現場にあふれていた

こうした、技術を向上していこうとする意識や現場を改善していこうとする意識は、なにも一部の人にだけあるわけではない。多くの技術者が日々改善意識をもって業務に取り組んでいる。その秘訣は、ヒトの改善意識を高める仕組みだ。
次は、この仕組みを構成する、現場の製造品質を支えるモノについて紹介する。

気軽な改善提案は「魚ギョっとボード」

まずはこれを見ていただきたい。

一見、ユーモラスに見えるこのボードは、現場での気づきや改善要望をタイムリーに集約するためのものである。思いついたときにすぐに記録できるように、付箋紙に手書きして貼るというシンプルな仕組みだ。品質や効率といったカテゴリーを魚の骨に見立てて区分している。その名も「魚ギョっとボード」。
貼った後はどうするのだろう?実は、この後の運用もユニークなのだ。

いったんボードに貼っておいた付箋紙を、別紙の提案書に貼り替えて、それをスキャナーで読み込むだけで1件の提案書が完成するという仕組みだ。提案書作成の煩わしさを経験している人も多いと思うが、その敷居を低くしていることが提案の件数にも表れている。昨年は6千件以上もの提案があったというから、現場の熱い改善意欲がうかがえる。

アイデアを形にする場所「手作り工房」

ProDeSセンターでは、魚ギョっとボードで提案したアイデアをすばやく実践するための場所が用意されている。「手作り工房」である。ここには、組立や製造で使う実際の材料や工具が常設してあり、いつでも自由に、自分の提案した内容を試してみることが可能なのだ。

また、この場所には、組立支援システム(MES 2.0)の練習キットも用意されているので、部品のピッキングから、組み付け、ネジ締めまでの一連の組立作業を体験できる。新人の教育にも活用していることから「教育道場」とも呼ばれており、出入り自由な学びの場所でもある。

ものづくりの原点は“楽しさ”だ

取材を終えて、見学エリアを出ようとしたとき、何やら競馬のレース場のような情景がモニターに映し出されていた。聞くと、これも現場の製造品質を支える施策の1つなのだとか。競馬に見立てて各ライン間の品質を競うのだという。障害発生率が最も低いチームが優勝となり、創立記念式典で表彰しているという。競争意識とともに、仕事のモチベーション向上に大きく貢献しているようだ。

工場と聞くと、“安全”、“品質”、“効率”をひたすら追求しているイメージが強い。それは、ものづくりの現場における普遍的なテーマでもあるから、今後もそうあり続けるだろう。しかし、ここProDeSセンターでは、そうした中にも、なにか、楽しむ気持ちがあふれていた。そうした“楽しさ”が、自ら自分の職場を変えていくんだという想いや、お客様に喜んでもらえる製品を提供しようという想いにつながっていくのではないだろうか。そしてその想いは、ものづくりの先にいるお客様にも確実にとどいていると感じた。

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