PFU品質のウラの裏を覗いてみた~どんな場所でも安心して使ってもらうための地道な検証~

ものづくりをしている会社は、例外なく、「お客様に安心してお使いいただける製品」を提供するために、厳しく、ときには気の遠くなるような品質評価を行っている。
さて、PFUでは、一体、どんな品質評価が行われているのだろうか。具体的な取り組みを、実際の品質試験の現場に入り込んで、映像とともに、4回に分けて紹介する。

第1回 PFU品質のウラの裏を覗いてみた~どんな場所でも安心して使ってもらうための地道な検証~
第2回 PFU品質のウラの裏を覗いてみた~配送時のあらゆる衝撃に耐えるための過酷な試験~
第3回 PFU品質のウラの裏を覗いてみた~ほこりにまみれた環境での利用を想定した検証~
第4回 PFU品質のウラの裏を覗いてみた~高温や低温環境での影響を徹底調査~

第1回目の今回は、次の2つの品質試験を紹介する。

信頼性評価:連続使用での耐久性と読み取り品質を評価

製品をできるだけ長く使いたいと思う気持ちは誰もが抱くはずだ。
PFUでは、スキャナーに対して長時間の継続使用を想定した「連続給紙テスト」を実施している。「連続給紙テスト」と聞くと、紙をスキャンし続けることで、原稿の読み取り回数に対する耐久性だけを評価する印象を受けるが、読み込んだ画像にスジ等が出ていないかといった品質確認も同時に行っている。さらに、スキャナーの心臓部ともいえる給紙ローラーの限界点を確認することもこのテストの目的である。また、操作する人が直接触る可動部分(ボタンやスイッチ)に対して、想定以上の回数と荷重をかけて耐久性を評価することも「信頼性評価」の中で併せて行っている。
信頼性評価の概要を、担当者からひと通りレクチャーしていただいた後、いよいよ、現場に潜入することになった。

信頼性評価の強力な相棒…

担当者に促され、評価を行う実験室の扉を開けた。足を踏み入れた瞬間、不思議な動きをしたロボットが目に飛び込んできた。実は、産業用ロボットを間近で見るのはこれが初めてだ。厳粛な試験の場では極めて不謹慎だが、“ワクワク”してしまった。ロボットは精密機械なので、ゆっくり動くイメージを持っていたが、大きい割には意外と動作が素早く、しかも、人間では到底ありえないアクロバティックな動きをする。不用意に近づくと危険な感じすらする。

ロボットの背後にはステンレス製の棚が規則的に配置されている。さらに、それぞれの棚には、A4サイズの未使用のコピー用紙が整然と置かれている。1つの束は50枚。取材の日は、たまたま試験の後半というタイミングだったこともあり、空きの棚も目立ったが、試験の開始時は棚がコピー用紙で埋め尽くされるという。この用紙は、オフィスなどで最も多く利用されているおなじみの普通紙(PPC用紙)だ。そして、部屋の中心には、評価対象の製品がしっかりと固定されている。今回、見せていただいたのは「パーソナルドキュメントスキャナー ScanSnap iX1500」である。

設計仕様の2倍の枚数をテスト

取材の間も、ロボットは休みなく、働き(??)続けている。
昼夜を隔てることなく、同じ作業を何千回、いや何万回も繰り返すのは、ロボットの得意とするところだ。しばらく見ていると、一連の動作が繰り返されていることに気づいた。つまり、こうだ。
まず、ロボットが、ある棚から読み取り原稿に見立てたコピー用紙の束(50枚)をワシ掴みにし、スキャナーの原稿台にセットする。次に、ロボットの先端に付いている“指”が、スキャナーのタッチパネルの「スキャン」ボタンをソフトに押す。読み込みが終わると、スタッカーに排出された原稿を、再度、原稿台にセットし、また、「スキャン」ボタンを押す。これを10回繰り返すのだ。この時点で、500枚の原稿をスキャンした計算になる。この1サイクルが終わると、今度は、別の棚からコピー用紙の束を取り出し…。こうした作業を、延々と繰り返すのだ。

ところで、なぜ、一定の間隔でコピー用紙を交換するのだろう。その理由を聞いてみた。
同じ用紙を何度も読み込ませると、当然ながら紙粉が取れてスキャンしやすくなってしまう。そこで、極力、実際の利用状況に近づけるために、あえて一定間隔で新しい紙に交換(この場合は10回で交換)しているという。また、新しい紙は給紙ローラーの摩擦力低下の原因になりやすいが、これについても、同様の理由で交換しているのだという。
さて、この果てしのない信頼性評価のゴールはどこなのか。実は、PFUでは、設計仕様の2倍の回数(枚数)の読み取りを検証しているという。検証期間は約3か月にも及ぶ。ジカンもカネも2倍ですね?と尋ねたら、「安心して使っていただくためには必要なこと」と即答された。こうした気の遠くなるような地道な検証が、PFU品質を支える源泉なのである。

信頼性評価の要はロボットと人の共創

こうした一連の評価の流れを見てみると、あたかもロボットにすべてをまかせっきりにしている印象を受けるが、決してそんなことはない。確かに「ロボット頼み」の部分は多いが、何をもって品質の良し悪しを判定するか、限界点をどこに設定するか、それは、人間の目に他ならないのだ。事実、今回の現場でも、担当者が頻繁にロボットの動きの調整や、画像品質の確認を行う場面に遭遇した。その都度、インタビューは中断を余儀なくされた。

このように、モニターに映し出される画像の異常を、いち早く察知するのはロボットではなくあくまで人だ。
今回、取材に協力してくれた、担当の山作さんは、次のように話す。
「ロボットにはロボットの強みがあるように、人ならではの評価の観点があります。それは、製品を使用する人や場面を想像しながら、信頼性評価を行うという点です」

最後に、評価の様子を動画で見ていただこう。お断りしておくが、この動画の場面は全工程のほんの一瞬に過ぎないのである。この作業が3か月も続くと想像してご覧いただきたい。

電波試験:製品の電波量の各国基準への適合を測定

多種多様の電子機器が、家庭であるいは会社で利用されている。こうした電子機器が出す電波は、ときに他の電子機器の動作に影響を与えたり、あるいは、他の電子機器からの電波を受けて誤作動を起こしてしまうことがある。

このため、電子機器が出す電波量については、一定の規格が厳格に定められており、規格で定められた基準をしっかりとクリアすることがメーカーに求められる。

そのための専門の施設を用意しているメーカーも多く、こうした施設を「電波暗室(デンパアンシツ)」と呼ぶ。
PFUには、本社開発センターと同じ敷地内の電波暗室棟に、電波量を測定できる「10m法電波暗室」がある。暗室のサイズは横19m×幅11mで、高さは6.8mにもおよぶ。ちょっとした工場のようだ。
PFUのすべての電子機器は、この電波暗室棟で厳しい試験が行われている。

いよいよ潜入!! なぜだかドキドキする

取材を兼ねて、電波暗室棟に初めて足を踏み入れた。
とはいっても、こういった施設は誰でも簡単に入れる訳でもないので、ここから先は、電波試験を長年担当している、清見さんに解説を兼ねて案内していただくことにした。
まず、暗室という名前から、外部の光線を遮った真っ暗な室内をイメージしていたが、意外にも明るい。それもそのはずで、写真現像用の暗室とは違って、ここはあくまで外部からの電波を遮り、また内部からの電波を漏らさず、電波的に暗いという意味での「暗室」なのだ。
電波量を正確に測定するためには、外部からのラジオ、携帯電話、無線、車の走行によるノイズなどの電波影響を受けない特殊な空間が必要なのだという。
次に目に飛び込んできたのが、壁と天井の異様な突起物。この突起物は電波吸収体といい、電波を吸収して、電波暗室を電波の反射のない空間にするためのものだ。

室内は、さぞかし複雑な機材が装備されていると思いきや、意外にもシンプルで、回転台の上に試験対象の製品を載せる台と試験対象を制御するパソコン、2本のアンテナ、そして巨大なプロジェクターだけだ。

ちなみに、回転台は荷重5トンに耐え得る構造なので、大型機器の電波測定も可能だという。また、2本のアンテナは電波量を測定するために使用される。従来、アンテナ1本では周波数範囲毎にアンテナを交換して測定していたが、アンテナを2本使うことにより、広い周波数範囲を一度に測定できるようになったとのこと。これによって、測定効率が格段にあがったのだという。そして、プロジェクターには、電波の状況がリアルタイムに映し出されている。まるで大型の心電図測定器のようだ。
文章や写真だけでは、広さや雰囲気がうまく伝わらないかもしれないので、360°の臨場感を味わっていただきたい。

目に見えないモノを見る

ところで、この建物の中で、いったいどんな電波試験が行われているのだろうか?
電波の試験と言ってもピンとこないと思うが、大きく分けて、2つの側面があるという。案内役の清見さんから次のように解説していただいた。

「開発製品から出る電波量を確認する試験をEMI(Electromagnetic Interference)といい、他の電子機器からの電波影響に対する耐性を確認する試験をEMS(Electromagnetic Susceptibility)といいます。この両面での試験が基本になります。この2つの適合を確認することをEMC(Electromagnetic Compatibility)と呼んでいます。」

とのこと。そのため、正確を期して内部では「電波試験」ではなく「EMC試験」と呼んでいるとも。どうやら業界では常識の基本用語らしい…(汗)。

ちょうど、あるスキャナー製品の電波量を測定中ということで、様子を見せてもらった。
回転台に載せられたスキャナーが一定の速度で回転している。
電波は目に見えないだけに厄介だ。どのタイミングで、あるいはどの角度で最も電波量が多くなるのかを知るには、熟練の測定技術が必要だ。
スキャナー製品の近くに寄って、さらに驚いた。何と、台の素材が発泡スチロールなのだ。

立派な台だと思ったら、なんと発泡スチロール!!

台の素材に発泡スチロールを使っている理由は、電波の反射による影響を最小限に抑えるため、とのこと。正確な測定のために、こんなところまでこだわっていたのである。

正確な測定は、高度な測定技術から生まれる

ご承知のとおり、PFU製品は、スキャナーをはじめ、世界各国に輸出・販売されている。そのため、電波試験では、世界各国で定められている規格をクリアすることが必要となる。この「電波暗室棟」では、「ISO/IEC 17025」を満たした運営を行っており、国際試験所としての資格も取得済みだ。PFUは、こうした電波試験に代表されるEMC分野では、二十年あまりの豊富な経験と実績を持っている。

測定の結果は、電波暗室の隣にある測定室のモニターに表示される。測定室では、電波暗室内の回転台の角度やアンテナの高さを遠隔操作して、製品から出る電波量が規定された範囲内に収まっているかを確認するという。
国や地域によって規定の内容は異なるが、電波量が規定された値を超えた場合、規定違反、すなわち法律違反となってしまうのだ。

モニターに映る測定の様子を近くでみせていただいた。「ほら、ここがノイズ発生の瞬間です」と言われてモニターに目を移す。確かに波形が微妙に振れていることはわかるのだが、正直、専門知識がない状態では測定の観点や、どの程度深刻なレベルなのかは理解できなかった。それでも、説明いただいた内容から、測定中のスキャナー製品の電波量は規定値内で、規定違反していないことが確認できた。測定作業のベースにある、豊富な測定技術を感じられた一幕であった。

電波を測定することだけが仕事ではない??

最後に、EMC業界唯一の技術資格であるiNARTE EMC Engineerと第一級陸上無線技術士の資格を持つ、試験担当の田代さんの言葉を紹介する。

「ノイズを出さない・ノイズに強い製品を開発し、提供するのは企業の責任です。ただ、私たちの仕事は、単に電波を測定することだけではありません。最新鋭の測定試験施設と、これまで培った測定技術をフル活用し、ノイズ対策につながる情報を開発者にキチンと提供することを通じて製品開発をバックアップすることです。そのために、日々、品質試験を行っています。そして、その先には常に“お客様第一”という想いがあります。」

PFU品質の一端を垣間見た取材であった。

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