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医療サービス向上に不可欠な医療情報の電子化に向けて

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トレーサビリティと信憑性の確保に欠かせないタイムスタンプと電子署名(HPKI)の普及を

医療の情報化が推進される中、電子化されたデータや文書を証明するタイムスタンプや電子署名の有効性がクローズアップされている。そこで医学の専門家に、現状の取り組みや普及に向けてどんな課題があるのか、話を伺った。

東京大学 大学院情報学環 助教授/医学博士・医師
山本 隆一 氏



1952年大阪府生まれ。 大阪医科大学卒業。 内科研修医、専攻医を経て、2003年より現職。 医療という行為の大部分は情報処理という観点から、診療情報の可用性を確保した安全管理とプライバシー保護に注目。 ITによる医療サービスの広義化が求められる中、安心して医療を受けることができる運用モデルを研究している。



医療情報の電子化の現状

石川

2006年1月に策定された「IT新改革戦略」では、ITによって我が国が抱える課題を解決する重点目標として、"レセプトの100%オンライン化、電子カルテの普及、医療情報の公開"など医療の電子化が挙げられています。実際はどれくらい進んでいるのですか?

山本

我が国の医療の情報化は、事務処理の合理化を目的に1960年代から始まり、その後"情報が発生するときにコンピュータに入力して伝票を失くす"オーダエントリシステムが導入されてきました。 しかし、診療現場にコンピュータが入ってくるようになると、これを診療の記録自体に活用しようという動きに変わってきました。 その最も進んだ形が電子カルテで、現在は全国の病院の5%近くが導入を試みています。 また、95%の病院でITを活用した業務システムが導入されています。
今後は病院の中だけでなく、医療情報が患者の意図とともに様々なところを流通する仕組みをつくる必要があります。 しかし医療情報はとても膨大になるため、紙などのアナログ情報も積極的に電子化して有効活用することが求められています。 そのキーワードが「レセプトの完全オンライン化」、「個人が生涯を通じて自分の健康情報を利用できるようにする」、「地域連携を促進する」などになります。

石川

つまり、情報を医療機関の中で閉じるのではなく、電子化を推進することでもっと有効に活用して国民の健康に寄与(医療情報の公開など)するということですね。

山本

そうですね。昨年度「e-文書法」が施行されましたが、実は医療分野では1999年度にはそれとほぼ同様の内容のものが認められていました。 署名捺印が必要なものはペンディングでしたが、いわゆるカルテの電子化は認められていたのです。 しかし、その当時はアナログで作成したものを適切に電子化する技術がなかったので、診療写真やカルテなどをデジタイズしたものが認められるようになるには時間を要した経緯があります。

トレーサビリティと信憑性の確保

石川

医療情報には、トレーサビリティと信憑性が確保されていることが重要と伺います。 それにはタイムスタンプと電子署名(HPKI※)を積極的に活用いただくことが重要と考えています。 PFUでは特許情報など資産価値の高い電子データを守るとともに来るべき「電子文書時代」のコンプライアンス強化を実現いただくため、2004年からタイムスタンプサービスを提供していますが、今後の普及に向けどのような課題がありますか?

※保健医療福祉分野で医療に関する情報を地域で連携して利用するための公開鍵基盤

山本

医療は国家資格などの資格に基づいて行うものです。 そのため、誰がこの書類を書いたかということはもちろん、どの資格の人が書いたかということがより重要になってきます。 たとえば診断書は医師しか作成できません。 紙文書であれば医師が捺印することで証明手段になっていましたが、電子化情報には電子署名を付与することがいちばん的確ですね。
しかし一般の電子署名では、誰がどの資格で署名したかを証明するには情報が不十分のため、医師が署名したことを電子的に証明する基盤「ヘルスケアPKI(HPKI)」を整備中です。 すでに厚生労働省は昨年の3月に標準ポリシーを公表しており、おそらく来年度には実用化され、普及が進むと思います。

石川

その中でタイムスタンプの位置づけは?

山本

「HPKI」の概念は世界的に考えられていて、2003年度には共通フォーマットによるドキュメントが完成しています。 我が国でもそれに基づき実装実験を始め、ガイドラインを策定しましたが、その時すでにタイムスタンプの必要性も指摘されています。
なぜタイムスタンプが必要かというと、2つ理由があります。 1つはタイムスタンプを施した時点で、その電子署名が有効であったということを証明できること。
2つめは、<何がいつ起こったか>、<どんな診療のもと、どのような治療が施されたか>を証明すること。 すなわち、医療経過(物事の順番を把握)を証明できることが重要なのです。
たとえば、患者の容態が悪くなったから注射したのか、注射したから悪くなったのかでは、意味合いが全く違ってきますね。 また、後でこの順番を入れ替えられるようでは記録としては信憑性がありません。 その意味で医療現場でのタイムスタンプの活用は、詳細な時刻よりも物事の順番を把握できることが重要という特徴があります。

石川

医療情報に求められるセキュリティについて、お聞かせください。

山本

診療情報は極めてプライバシーに機微な情報です。 その意味で情報システムを外部のネットワークに接続することはたいへん勇気のいることなのです。 それと、医療情報は物事の順番を把握するために、関連性が確保され、かつその責任と所在が明確化されていることが基本となります。

石川

医療情報がネットワークを通じ、医療サービスの向上に向けて流通するようになるのは、いつ頃になるのでしょうか?

山本

それは、医療に求められるセキュリティを考えると、少し先になるのではないでしょうか。一方で、現状は電子化した医療情報をCDなどのメディアで流通できるだけでも十分メリットはあるわけです。今後は逆に、患者側からネットワークを通じて情報が欲しいという要望が出てくる時代になっていくのではないかと考えます。

ドキュメントの標準化を目指す

石川

流通させるためには医療情報のドキュメントを標準化する必要がありますね。

山本

現在、外部に流通する医療情報の国際的な業界標準は、XMLで表現する「HL7-CDA(クリニカル・ドキュメント・アーキテクチャ)」をベースに行うというものです。 日本では医療の標準規格をオーサライズする「HELICS協議会」という機関があって、これを「HELICS協議会」標準と呼んでいます。 手紙ベースのものはPDFでもよいのですが、中身をちゃんと伝える場合はXML形式になり、署名もXMLデジタル署名です。

まとめ

石川

医療情報を医療サービス向上に向けて積極的に有効活用(流通)していくためには、適切に標準化かつ使いやすい環境が提供されていないといけない。 同様にタイムスタンプも世界標準でなければならない。 さらに、これまで我々はタイムスタンプの存在価値について、存在時刻の証明と改ざん防止が重要と考えてきましたが、医療分野においては順序性がより重要であり、それこそがタイムスタンプを使う理由になるということがよく分かりました。
今後もそれらを踏まえ、より一層信頼される公開情報になるよう努力していきたいと思います。