「AI+ものづくり」作戦会議~PFU上海の挑戦~

技術革新のスピードで世界の注目を集める中国。その中国に拠点を置くPFU上海計算機有限公司(以降、PFU上海)は、AI技術開発におけるPFUグループのフロントランナーです。

PFUが社員のアイデア実現を支援する制度である「Rising-V」の活動を通して、新しいサービスや製品の研究を進めています。

モノから、体験やサービスといった新しい価値の提供を目指す「AI+ものづくり」へ、彼らの挑戦について紹介します。

※記事中に記載のある『Rising-V活動』は、現在は終了しています。

新しい技術に正面から向き合う

PFU上海は、1992年の設立から現在まで、PFUグループのソフトウェア開発のほか、他の世界的企業に向けたシステム開発を通して着実に技術力を高めてきました。

そうした彼らが「PFUグループでAIといえばPFU上海」という位置づけを期待されるようになったのは、この数年のことです。

PFU上海には、ソフトウェア分野に経験豊富な多数の開発者がいます。その技術力をベースに、AI分野に強い人材を育成していくという戦略のもと、画像認識や音声認識、自然言語処理分野などのプロジェクトにPFUと共同で取り組んできました。

現在は、共同開発以外にも、PFU上海で独自に研究/開発したAI OCR エンジンを中国国内のビジネスへと展開しています。中国の大手金融機関や中国に進出している日本企業のシステムにも、PFU上海のAI OCRエンジンが採用されています。

このような新しい分野の技術力を獲得する道のりは平坦なものではありませんでした。PFU上海で開発メンバーをまとめている殷(いん)さんに、お話をききました。

殷さん

―PFUグループの中で、AIといえばPFU上海、と伺いました。これまでどのようにして技術を高めてこられたのでしょう?
我々のAI技術の研究開発は2017年からスタートしました。この数年は世の中のAI技術が急速に発展してきています。ほぼ毎月新しい技術・手法が研究され、論文として公開されています。

このような最先端の情報を常にフォローし、自分たちが関わる分野において役立つと判断した最新の研究内容を、自分たちの環境で再現し、試行錯誤しつつ優れた手法をできるだけ早く採り入れるようにしてきました。

そのように地道に努力を続けてきた中で、PFUと共同開発した「環境音識別AI」が、DCASE 2018 ChallengeのTask4で世界各国の50システム中、1位を獲得したことは、大きな自信になりました。今年はDCASE 2020 Challengeにエントリし、2度目の栄冠を目指します。

)DCASE(Detection and Classification of Acoustic Scenes and Events)は、IEEE公認の国際コンペティション。Task 4は家庭内の様々な環境音(犬の鳴き声、掃除機、髭剃り機など)を識別する精度を競うカテゴリー。

新たな挑戦へのスタート台~Rising-V活動~

Rising-V活動は年々活発化してきています。

2019年度には個人やチームもあわせて64件のテーマ登録があり、活動成果について、メンバーの想いと取り組みの実績をふまえ、アイデアの成長性という観点で審査が行われました。

その中にPFU上海のAI技術力を活かした新しいサービス/製品の研究を進め、成果をあげたとして“Rising-V賞”を受賞した活動があります。

Just Do It! 行動することで得られるものがある

環境音識別AIのセンサー装置をPFUと共同で開発していた張(ちゃん)さん。

業務とは領域が異なる、美容分野で「こんな製品があったらいいのに…」というアイデアが浮かびます。自分が欲しいもののイメージを思い浮かべたとき、自分たちがこれまでに蓄積してきたAI開発経験と音声認識の知識を活用すれば実現できるかもしれない、と考えました。

「あったらいいな、で終わらせたくない。自分たちで作ってみたい」とRising-Vでの挑戦を決意します。

自身のアイデアの実現に向けて動き出した張さんに、お話をききました。

張さん

―普段の業務とは異なる分野のアイデアですが、どのようなきっかけで思いつきましたか?
今販売されている製品を見ていて「もっと魅力的なものにできる余地があるはず」と感じたことがきっかけです。美容製品は人によって合う、合わないが顕著に感じられる傾向があると思います。そのような個人のニーズに応える機能があったらいいのに、と。

―周囲を巻き込んで進めていくという行動力にバイタリティを感じます。そのときは、どんな風に考えていましたか?
私は「人生の大きな目的は知識ではなく行動にある」、「Just Do It!」という言葉が好きです。できるかどうかを迷うよりも、実際にやってみよう、と考えました。

Rising-Vは新しいことを試せる場です。みんなでアイデアを持ち寄って最新技術を探るという、未来のPFU製品に向けた良いチャレンジができます。

私たちにとって初めての経験だったのが、ハードウェアと連携した設計です。難しいことは多くありましたが、経験のなかったところから困難を克服して技術を獲得していく過程に、面白さや楽しさがありました。

―市場調査(マーケティング)として、どのような活動をされましたか?
まず、ニーズやプラットフォームについて調査しました。デザイン、機能、価格についても、競合製品の情報を集めて研究しています。

一部の競合商品は実際に購入して効果を体験してみたり、20代から50代の女性の声ということで女性社員にアンケートを行って意見を聞いたりしました。

―製品の試作はどのように進めたのでしょう?
ハードウェアについては社外の、特に国際的なプロダクト・デザイン賞で実績のある会社を中心に協力先を選定し、デザインの候補案を出してもらいました。

候補案は4つあり、それぞれに魅力のある提案で、なかなか決められなかったことが印象に残っています。最終的にはまた女性社員にアンケートをとって投票で選びました。

このようにハードウェア開発で社外と連携する経験も今回が初めてでしたので、調査を始めてから1回目の試作品完成まで、非常に多くのやりとりがあったことも貴重な経験になりました。

張さんのアイデアの実現に向けた活動は、さらに高度な機能の実装に向けて研究が続けられています。製品化が実現して市場に登場する日がとても楽しみです。

世の中にとって“Must(絶対に必要)”な価値を提供したい

PFU上海のRising-V活動の中には、PFUと協力して進めているものがあります。

事業戦略室の新田さんは、PFU上海が中国市場を対象にした新規ビジネスを立ち上げる際に、日本の製品開発の経験とマーケティングの知識をもとに企画とコンセプト作りにおいてアドバイスをしています。

新田さん

今回、新田さんは医療福祉分野のサービスを企画し、PFU上海に提案しました。

―今回の企画の背景ですが、どのような経緯でこの企画が生まれたのでしょうか?
新田 まず「どういう分野を選ぶべきか」については、世界各国の先進ベンダーがDX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めていく動向をにらみながら、ずっと考えていました。

その中で、やはり“Nice to have(あれば良い)”というよりは“Must(絶対に必要)”なもの、より必要性の高いソリューションを提供できるような市場に切り込んでいくべき、という認識を強く持つようになりました。

もうひとつ考えたのは、PFUがものづくりに強みを持つ会社であるということです。

イメージスキャナーで培った“ものづくり”の文化や技術は、今後も新しいハードウェアの開発に役立つだろう、と。PFUの日本側―ものづくりの技術―を、PFU上海のソフト開発技術と組み合わせることで、PFUグループから新しい価値を生み出せるのではないか、という期待がありました。

新田さんの提案を受けて、多くのメンバーが今回のRising-V活動に参加。リーダーを務めた、黄(こう)さんにお話をききました。

黄さん

―このような企画を日本側から提案されたとき、どのように感じましたか。
「絶好のチャンス」と感じました。ちょうどその頃、AI技術を使った新規ビジネスを開発する上で、どういったものが真に価値のあるサービスになるのか、と私たち自身も考えていたところでした。今回の提案は、私たちが経験したことのない分野ではありますが、新しい技術を学ぶ良いチャンスだと感じました。

―市場調査(マーケティング)として、どのような活動をされましたか?
急速に高齢化が進む中国の状況と、今回のサービスを検討しているベースとなる製品について販売台数を調査しました。

製品自体は5年間で2倍以上の伸びとなっていますが、現在検討している機能を付加した上で市場に受け容れられるまでには、まだ時間がかかると予想しています。この製品の価値をユーザーにどう伝えていくか、市場を形成していけるかが今後の課題ととらえています。

―製品の試作はどのように進めたのでしょう?
今回のプロトタイプは全部社内で作成しました。私たちはソフトウェア開発が強みですが、ハードウェアについては経験が少ないため、今回の活動で電子回路の改造や、センサーの使い方など、いろいろ工夫しました。アイデアを試すことが非常に楽しく、試作品を動かしていると他の部署の社員まで集まってきて盛り上がりました。

―経験がない分野への挑戦ということで、苦労されたことも多かったのではないでしょうか。
知識や経験がないという困難に対しては、日々とにかく一歩ずつでも前に進む努力を続けるしかないと思っています。ただ絶対にできるという確信があったわけではなく、「Rising-Vのお金がムダになったらどうしよう…」というのを一番心配していました(笑)。

それでも最初は何も知らなかったところから徐々に知識を広げ、できることが増えてきたという実感は確かにありました。製品化にはまだまだですが、とにかく、あきらめずに次の挑戦、その次の挑戦と続けていきます。

困難は挑戦のための絶好の機会

ふたつのRising-V活動にみるPFU上海のメンバーは皆、新しい挑戦に躊躇することがありません。

「本当にやれるのか?」という不安を、日々の弛まぬ努力と圧倒的な行動量で遠ざけ、「困難は挑戦のための良い機会だ」といいます。

そして、ひとつひとつのプロジェクトに真摯に向き合い、地道な努力を続けることでAI分野の開発技術を磨いてきました。

彼らはまた、今後の日本(PFU)とのさらなる共同開発にも意欲を見せます。

「もっと多くの機会があれば、さらに緊密に協力して新たな製品を開発することができます。PFU上海とPFU、それぞれの強みを発揮して、一緒にPFUの未来を作っていきたい」

両者が互いに協力し、世の中に新しい価値を提供する―「AI+ものづくり」の作戦会議は、まだまだ続きます。

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