エッジ技術で共創する未来
~CEATEC 2019 イベントレポート~

IoTと共創で未来の社会を描きだす大規模な展示会、「CEATEC 2019」。787社/団体におよぶ、幅広い業種の企業・団体が一堂に会する。10月15日~10月18日の4日間にわたり開催され、のべ14万人以上が来場した。今年のテーマは、「つながる社会、共創する未来」。IoTですべての人とモノがつながり、これまでにない新しい価値を生み出すという「Society 5.0」の実現に向け、多種多様な最新のテクノロジーが展示された。

今年のPFUの出展は、例年とは様子が異なる。展示ブースには、様々な企業・団体とコラボレーションした、共創による技術展示が並ぶ。既存のPFUのイメージにとらわれない、未来に向けた多くの可能性を感じていただける内容だ。

新たな未来への期待が詰まったPFUブースの様子を、担当者へのインタビューとともにお伝えする。

認識技術×自律分散アーキテクチャーが描く未来の姿

PFUの今年の出展テーマは「The Decentralized Future」。エッジ分野に展開する多様な技術の展示を行った。

PFUは、長年、スキャナーをはじめとする、お客様に近い場での情報処理技術(エッジ技術)に取り組んできた。今年は、磨いてきた画像認識技術や音響認識技術を搭載したエッジで働く端末と、それらをつなぐネットワークの技術である、自律分散アーキテクチャーがメインの展示だ。

例年の展示と異なるのは、様々な企業・団体との「共創」である技術展示だ。PFU独自で開発した技術だけでなく、他社の技術との組み合わせによる意欲的な試作機が並んでいる。

出展の責任者である伊藤フェローは、「様々な分野でいろいろな企業と共創しながらやっているPFUの姿を見ていただきたい」と語る。今回の展示では、これらの新しいPFUをお客様に感じていただき、共に未来を創造できるパートナーを探すことも目的のひとつだ。

では、実際に展示された内容の一部をご紹介していこう。

音響認識でシーンをとらえる

ブースに入って、すぐに目に入るのは、パネルに並ぶ「音響認識」の文字

PFUが「音響」とはこれ如何に?担当者の小坂さんに聞いた。

――PFUというと、やはり、スキャナーであり、画像認識、というイメージが強いです。どんなきっかけで「音響認識」をはじめられたのでしょう?
小坂PFUは、これまでずっと紙をスキャンするビジネスをしてきましたが、ほかにもスキャンできるものがあるのではないか、と考えていました。その中で、「音」をスキャンして、意味のあることに変換することで、ビジネスの役に立つのではないか、と考えて取り組み始めました。

一見、これまでのPFUと関係のなさそうな音響認識も、スキャナーからの「スキャン」つながりということのようだ。続いて、デモを見せていただいた。

デモスペースに移動すると、アルミ削り出しのような銀色に輝く、太い円柱状の物体が鎮座している。隣にはクイズ番組の早押しボタンのようなスイッチが。そして、正面には大き目のモニターがふたつ。画面には、「『よろしくお願いします!』と喋ってからボタンを押してください」という文字が浮かんでいる。

いったい何が起こるのだろうか。はやる気持ちを抑えながらも、早速デモを体験させてもらった。

よろしくお願いしまーす!

ドキドキしながら、スイッチを押してみた。
しばらく待つと、画面には、何やら円グラフとパラメーターとおぼしき数値の一覧表が現れた。円グラフは、声の調子から分析した、感情(Happy、Angry、Normal)の割合を示したものだ。表のほうは、カメラで読み取った表情や動きを分析した、ストレス状態とのことだ。カメラによるストレス分析は他社の技術だが、声(音声)による感情の分析はPFU独自の技術だ。声の調子によって感情が分かってしまうとは驚きだ。

音響認識コーナーではほかにも、同志社女子大学様と協力した、空間の人の声をとらえて、場の盛り上がりをハートの色や大きさで可視化したデモや、ヤカンのお湯が沸騰する音や目覚まし時計のアラーム、赤ちゃんの声など、家庭の室内で発生する様々な音を聞き分けるデモも行われていた。

再び小坂さんに聞いた。

――これはどのような技術を使っているんですか?
小坂これはディープラーニングという技術を使っています。目的にあわせて、見つけたい音を録音して覚え込ませれば、どのような音でも識別できるようになります。

――学習させる音によって、いろいろなことに使えそうですね。
小坂そうなんです!いろんなところで使えるんです。例えば、学校でいじめも見つけられますし、ATMの前で振り込め詐欺も見つけられます。また、工場で人が耳を頼りに異音をチェックしているところでは、この装置を使うことで、自動でチェックできるようになります。

――ブースに来られたお客様の反応はいかがですか?
小坂すごくいいです!すぐに自分のビジネスに使いたいというお客様や、タイアップしてサービスをつくらないか、というご相談も数多くいただいています。例えば、介護施設に入居されている方やスタッフの方が気分よく過ごせているかを見える化したい、というお話をいただいています。

――いろいろな使われ方を考えるとわくわくしますね!
小坂そうですね!わくわくしています。お客様から、こんなことに使えないか?というご意見を、たくさんいただいていて、これからどのようにお役に立つ製品・サービスにしていけるか、と考えるのが楽しみです。

本人確認端末で描く未来

続いて、他の展示物とは一線を画す、おしゃれなカウンターのあるコーナーへ。
ぬくもりのある木目調のカウンターに、高級感のあるテーブルランプ。さらに、品よくまとめられたフラワーアレンジメントが配置されている。
…まさに、素敵なホテルのカウンターだ。
その中央に、高さ20センチメートル程だろうか、白い三角型の装置と、鍵部分だけのドアロック。なんとも不思議な取り合わせである。三角型の装置が、本人確認端末なのだという。

装置は、斜めになった面が正面を向き、小さなカメラと小さな画面が付いている。そして、下部が大きく開口した形だ。開口部に、パスポートや運転免許証など、顔写真が付いた公的な証明書を置くと、写真を読み取って、正面に立つ人物(パスポートなどを差し込んだ人自身)と公的な証明書の人物が一致しているかを照合する。PFUが得意とする画像認識技術を発展させたものだ。

実際にデモを見せていただいた。
担当者の方が運転免許証を装置に差し込むこと数秒、装置となりにあるドアロックがガチャリと開錠された。
それなりに時間がかかると思いきや、俄然スマートだ!
顔写真は重要な個人情報だが、この装置ではデータをクラウドなどへ送信しない。端末のみで処理して、データを端末に残さないので安心だ。

担当者の高森さんに聞いた。

――ほかの展示とは違って具体的な利用シーンが感じられる展示ですね。
高森今回の展示では、製品コンセプトと利用シーンを提示して、具体的なニーズや活用先、困りごとを知りたいという思いがあり、このようなブースデザインにしました。これからインバウンド需要も見込まれるということで、ホテルでのチェックインをイメージしています。

――お客様の反応はいかがですか?
高森お客様の反応は良いと思います。約8割の方にご興味を持っていただけていて、製品のニーズを感じています。また、技術的な連携や具体的な活用についても多くのご相談をいただいています。

――どんなお客様がいらっしゃっていますか?
高森想定していた、ホテルの管理などを担当している方だけではなく、金融、警備など様々なお客様にご興味を持っていただいています。特に金融では、オンラインでの認証など、本人確認作業を効率化したいというご要望を感じました。

――様々な使い方ができるのですね。
高森そうですね。今回のデモではドアの鍵でしたが、本人確認した後でどのような動きにつなげるかは、目的や使い方次第です。だからこそ、今回の展示会では、様々なお客様からニーズや困りごとなどのご意見をいただきたいと思っています。

――どのようなご意見をいただいているのでしょうか?
高森セキュリティの面を気にされているご意見がありました。データを端末に残さないという点についてはご好評いただいていますが、カード自体を偽造されてしまうと通ってしまうのではという点が懸念されています。これについては、本人確認以外でも、セキュリティを確保する仕組みを考えていきたいと思っています。また、場所によって必要なセキュリティレベルは異なりますので、利用シーンに応じたセキュリティを提案できるようにすることも今後の課題ですね。

――かなりの完成度を感じましたが、製品化は近いのでしょうか?
高森いえ、まだまだです。
技術的には、今回いただいた課題である、カード偽造に対して改善していきたいと思っています。ビジネス的には、今回、ニーズがあることは分かったので、お声かけくださったお客様から具体的な困りごとや使われ方を深掘りしたり、一緒になって取り組んだりしていきたいと思っています。
そして、PFUの新しいビジネスとして、お客様にとってより価値ある製品、ソリューションにしていきたいです。

セキュリティ&ブロックチェーンで導く安心と安全

ブースの中央は、セキュリティ&ブロックチェーンのコーナーだ。ここには、ブロックチェーンに代表される自律分散アーキテクチャーに関する技術が展示されている。先ほどの、音響認識や本人確認の装置がエッジ(お客様に近い場所)での技術であったのに対して、こちらは、それらエッジにある端末を管理する、ネットワークに関する技術だ。

担当者の葛西さんが、デモを交えて説明してくださった。

――こちらでは、どのような展示をされているのですか?
葛西ここに4つの端末があります。この4つの端末をブロックチェーンという技術を使って管理している例です。
ここでは例として、音響認識の装置を使っていますが、音響認識の装置でなくてもかまいません。
例えば、この端末を会社の会議室において、会議室の利用状況を見える化しよう、と考えたとします。その場合、各会議室に端末をひとつずつ置きます。それぞれの状態が見えるように、ネットワークにつなぎます。
従来、これらネットワークにつながった複数の端末を管理するときは、マネージャーソフトやそれが動作するサーバーが必要でした。それらをなくして、端末同士で情報を共有して、ブロックチェーンという技術を使って分散管理しよう、というのが今回の展示です。

――端末同士で情報を共有、というのはどういう状態なんでしょうか?
葛西例えば、今4つの端末がつながっています。こちらのPCでは、つながっている端末を一覧できます。4つ見えているのが確認できますね。で、この1つを外すと…(LANケーブルを抜く)、このように、自動的に一覧は、3つになります。これは、残った各端末が通信しあって、今つながっているのは3つだ、と認識しているんです。

――ん??今見ているこのPCで管理しているようにも見えるのですが…
葛西PCも端末のひとつなんです。PCは、別に管理サーバーというわけではなく、端末のひとつとして、持っている情報を表示しているだけなんですよ。
端末の追加も簡単で、ネットワークにつなぐだけです。ひとつひとつの端末で分散してデータを持っているので、ひとつがなくなったり、壊れたりしても、全体が停止することはありません。

ネットワークに配置される様々な機器が、管理サーバー不要で、しかもシステムを停止させずに利用できることは大きなメリットだ。

セキュリティ&ブロックチェーンコーナーの、もうひとつの展示では、さらにセキュアな環境で、自律的に働く機器を目指している。

ここでは、PFUの「iNetSec SF」とXage Security社様との共創による、工場などでの利用を想定したブロックチェーンの展示を行っている。
「iNetSec SF」は、ネットワークのためのセキュリティアプライアンス製品だ。不正アクセスを検知し、リスクのある端末をネットワークから遮断する。一方、Xage Security社様はブロックチェーン技術を応用したセキュリティソリューションを展開する企業だ。「iNetSec SF」は、Xage Security社様が得意とするブロックチェーンと知識分散の技術を応用し、管理サーバーによる集中管理を必要としない、すべての機器が停止してしまうような障害点のない運用を実現することを目指しているという。
セキュリティ機器が停止によって不正アクセスなどの脅威を見逃すことは、一瞬たりともあってはならない。ユーザーの安心・安全のためには、24時間確実な稼働をすることが求められるのだ。

今回の展示では「iNetSec SF」との共創ではあるが、ベースとなる技術は、様々なエッジ製品に展開可能だ。管理サーバーなどから孤立する場での利用に最適とのことで、展示されている工場での運用だけでなく、船舶や宇宙ステーションなどでの利用を想定するお客様もいらっしゃったとのこと。
ここでも共創の技術を中心として、様々な活用先が見込まれている。

スキャニングの未来

これまでPFUの新しい技術に関する展示を紹介してきたが、9月に発表された新製品のスキャナー「fi-800R」も、もちろん展示されていた。

「fi-800R」は、受付窓口など、限られたスペースでの利用を想定したスキャナーで、一般的な事務用紙だけではなく、名刺、運転免許証などのカード、お薬手帳やパスポートといった小冊子など、受付業務で想定される様々な紙を読み取れる。
また、装置の上から挿入した紙が再び上部に排出される「Uターンスキャン」や、冊子などが挿入部分に戻ってくる「リターンスキャン」など、作業スペースが制限される窓口業務での操作性に徹底してこだわった一品だ。
お客様の反応も好評で、コンパクトな筐体はとても好意的に受け入れられている。「スキャナーを使うとき前の物をどかさなきゃいけなかったけど、これだとすごくいいね」「冊子もこれで読み取れるなら、楽になります。ぜひ導入を検討したい」という嬉しいお声をいただいている。

「技術」×「活用」、共創からはじまる未来への一歩

「CEATEC 2019」は、盛況のうちに幕を閉じた。PFUの展示では、これまでのPFUらしい、実直にお客様に向き合う姿勢が見えつつも、様々な企業や団体と一緒になって新たな価値を生み出す、「共創」を実感できる内容であった。また、ご来場いただいたお客様からのご意見によって、技術を軸とした、さらなる活用先も期待できる結果となったようだ。

「CEATEC 2019」のテーマである「つながる社会、共創する未来」に表現されるように、現代社会は、あらゆるものがネットワークでつながり、それらが連携しあって複雑な社会を構成している。こうした複雑化する社会の中に生まれる社会課題を、単独の企業や個人が解決していくことは、もはや困難となっている。
企業も個人も連携して社会に向き合うことが求められる中で、PFUが今回の展示会で示した「共創」の姿勢は、未来に向けた着実な一歩となりえるだろう。

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